(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

臨床の落とし穴-棒つきの飴玉で咀嚼訓練は可能か?

DocTak2008-10-14



第三回のセミナーの御案内の発送が随分と遅れてしまいました.手作業と家内工業では思い通りの日程で発送できません.御期待いただいていた方々にはご迷惑をおかけいたしました.今回は,養護老人ホームを中心にしてお送りしておりますが,いつも同様に他の職の方々へも送らせていただいております.


さて,一つ気をつけていただきたいことを....
先週末,昨年クラブでの練習中に低酸素脳症になって遷延性意識障害となられたお嬢さんの御母堂からの問い合わせ電話の内容です.


このお嬢さんは,発症後比較的早い数ヶ月で受診されました.初診時には,遷延性意識障害の方々に多い,原始反射の一つ,咬反射がありました.この間,まったく経口摂取されておられなかったことで,口腔機能は廃用性変化に陥っていました.
これまでの経験では,長期の非経口摂取期間があって,口腔ケアも不十分であると,「口腔は過敏,咽頭は感覚鈍麻」になるため,ケアをしようとすると原始反射,咽頭に垂れ込むと咳反射が出ずに誤嚥というのが通常のパターンです.脱感作と咽頭の感覚賦活がポイントになります.

この概念で,当初の病院の担当医の先生,担当の看介護スタッフさんたちの協力もあって,なんとか前口蓋弓からのクラッシュゼリーの反射性嚥下は可能になりました.ただ,舌の左右運動は不十分ですので,これからの課題と考えていた折に「リハビリテ−ション専門病院」に転院になりました.その病院では,積極的な嚥下リハビリテ−ションを入院直後から開始されました.

その骨子とは....

1.  棒つきの飴玉を用いた咀嚼訓練.
2. ガーゼに巻いた飴玉を臼歯咬合面に載せた咀嚼訓練.
3. VFによる嚥下機能の評価

以上でした.


このお嬢さんには,これらの介入プログラムが大きな問題を有していることにお気づきでしょうか?


問題1. 棒つきの飴玉を用いた咀嚼訓練.このお嬢さんの舌運動は,ようやく前後運動が始まったばかりです.すなわち,離乳期に当てはめると,離乳初期です.これから上下運動〜左右運動を促していく必要があります.飴玉を咬合面に載せても舌は左右に動かせないため,無効な訓練であり,そのまえに機能的口腔ケアが行なわれるべきです.


問題2. ガーゼで巻いた飴玉を臼歯咬合面に載せた咀嚼訓練一度自分がしてみるとわかりますが,ガーゼで巻いた飴玉などは,なんの快感もありません.むしろ唾液を吸ってしまい,口腔粘膜が過敏になります.遷延性意識障害のために明確なコミュニケーションが採れなくて注文つけられないのに,これは酷な訓練です.


問題3. 飴玉を「舌で触っている」ことでも唾液(刺激性唾液)は出ます.飴玉は「砂糖」ですので,この唾液によって徐々に溶かされ,口腔内はネタネタになります.口腔清掃が為されないと,いつかデンタルプラークの大量発生します.さらに体温と同じ温度になった汚れた唾液は気管内に流入しても反射を促さず,誤嚥性肺炎を生じる可能性があります.

問題4.  VFによる嚥下機能の評価読者の方の中に,造影剤を主食とされている方がおられたら,お許しください.VFで,造影剤を使いますが,造影剤を血管造影剤ならば味の問題,バリウムなら付着性(消化管に付着することで検査できるので)によって,送り込みに障害が出ます.VFやVEは,指示の通る,意識清明で,喀出できる人以外には検査精度は低下することを心にしていただきたいと思っています.

こんな臨床での落とし穴についても次回の基礎セミナーでは含めてみたいと思います.