(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

粘りがつくと安全なのか

DocTak2006-11-10


老健の全国大会での摂食嚥下セミナーのための準備や今日の食品機械工業研究会でのシンポジウムの準備で更新ができずにいました.なかなか,頻繁な更新は難しいです.

さて,前回に,私どものイケメン大学院生OK君の素晴らしい研究の一部を紹介しましたが,今回は彼の素晴らしい仕事について少々深く紹介します.

かれの仕事は,先輩院生の仕事(「軟口蓋を挙上する口蓋帆挙筋も舌と軟口蓋をつないでいる口蓋舌筋の活動も,個人の至適嚥下量を中心にある幅の中では良好に嚥下量によって調整される」という結果でした)のデリバティブとして位置づけていたのですが,そんな簡単なものではありませんでした.

彼の予備実験では,軟口蓋が最も高く上がる時と挙上した軟口蓋が舌を最も強く引き寄せる時の間の時間(すなわち,擬似的に,軟口蓋を開いた時から,食物が流れて,再び閉じるまでの時間)は,粘度や嚥下量に関係なく,個人ごとにほぼ一定であることが示されました.
つまり,簡単に言えば,咽頭へ送り込む時間は,食物の物性や量に左右されず個人ごとに一定であることを意味しています.つまり,口の中に沢山入れようが,少なく入れようが,軟口蓋が上がってから咽頭へ送り込まれる時間は一定であるので,沢山入れれば複数回の嚥下になり,口の中に残るのは,そのためであると言えます.

一方,粘りがついた食物をのむ時,わたしたちは,軟口蓋を挙上させ,咽頭への入り口を開大して食物を咽頭に流し込み,その後に口蓋舌筋活動で軟口蓋に舌を引き寄せて咽頭に食物を送り込んでいます.彼の研究の結果によると,軟口蓋を挙上する口蓋帆挙筋の活動は,粘りを一定にしておいて一回嚥下量を増加させると上昇します.すなわち,嚥下量に依存して開大する面積を大きくしています.これにより軟口蓋挙上から舌での再閉鎖までの一定時間に入る量を変えています.一方,一回嚥下量を一定にしておいて,粘度を上昇させると口蓋帆挙筋の活動は小さくなりました.すなわち,ここが難しいポイントですが,粘りが高くなると咽頭への押し込みに強い力が要るため,舌を軟口蓋に引き寄せやすくするために軟口蓋を高く上げずにいるように思えます.あるいは,咽頭へ引き込むための陰圧を形成しやすくするために軟口蓋を低くしているのかもしれません.
これらについては今後のテーマです.いずれにしろ,口腔から咽頭への送り込みは,増粘剤を加えたら安全というわけではないようです.
食物物性と口腔から咽頭への送り込みの移行期の調節は,なかなか興味深いものです.残念ながら,このような食物の物性を含めた特性と嚥下運動の調節についての研究は,私の属する教室でも(全員で10人ほど),院生の4年目OK君と2年目KT君の二人です.高齢化社会となった日本が必要とする領域にもかかわらず,未開拓の研究フィールドであり,早期の解明が望まれていることを考えると残念です.

今回は,やや研究に入り込み過ぎて難しくなりすぎました.次回はもう少しsoftな話題を紹介します.

一昨日は報告できませんでしたが,私,吉田先生,水谷先生,藤森先生による無限責任中間法人が大学に認められました.呼称はTOUCHです.Team for Oral Unlimited Care and Health(限りなき口腔ケアと健康のための福祉・医療団)の略です.

活動内容については,また紹介していきたいと思います.

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