みなさんは,嚥下機能の評価に,いわゆる「水のみテスト」を使われていますでしょうか?
水のみテストで,粘りのついた食物での評価もされておられますか?うまく評価できていますか?たしかに,水のみ検査でうまく飲めれば,多分「水はのめる」ことを言えますし,また水は拡散性が高い上,舌と口蓋で押されて咽頭に入るのではなく,初速がつくと重力によって,一気に咽頭に流れ込んでしまいますので,嚥下機能に問題があれば「ムセ」や「誤嚥」のriskは高くなりますね.実際,健常者でも,何かの拍子に水を誤嚥することがありますよね.では,水のみ検査で「水にムセ」ると,どのような食事も控えないといけないでしょうか?少し粘りがつくと流動物はゆっくりと流れます.そこで,咽頭に一気に入らないために安全であるとされて,増粘剤が使われますね.ただ,この増粘剤の問題は,以前に論じましたように,あまりに物性が多様すぎて現場は混乱していますよね.
さて,前回,私の所属する教室の院生のOK君の学位研究についての興味深い結果を報告するとお約束しました.彼の仕事は,「嚥下時には,口腔から咽頭の間にある軟口蓋が挙上して,口腔の食物を咽頭に送る時の軟口蓋の運動量はどのような要素で決定されているか」というものです.私たちは,個人ごとに至適嚥下量(楽にのめる1回嚥下量のことです)があって,その量を中心にしてある幅の範囲内で軟口蓋の運動は調整されている,すなわち,水の場合には「個人ごとに楽に(すなわち失敗せずに)1回で飲める量が違っていて,その量を中心にして嚥下量に応じて軟口蓋運動は調節される」ことを示しました.
もうお判りですね.水のみテストで一定量を飲ませたときに,問題が無いのは正常ですが,障害のために軟口蓋の運動量に制限が生じたり,口腔の感覚障害のために量が十分に知覚できないなら,「楽に飲める量」も影響されるということですね.
話はさらにややこしくなります.この至適嚥下量は,飲むものに粘性がつくと,その粘度に相関して小さくなるということを奥野君は明らかにしました.そうです,増粘剤で粘りをつけると,楽に飲める量は少なくなるのです.
「水のみテスト」で,本当にすべての食物を採るのを止めさせるような絶対的な評価が可能なんでしょうかねぇ...そんなに口腔機能は簡単なもんじゃありませんね.
では,次回はもう少しOK君の仕事の興味深いところを...
来週,私は,
全国老人保健施設協会の全国大会での摂食嚥下のセミナーの講師を務めるために熊本に参ります.菊谷先生と一緒に講義をしてまいります.
金曜日には大阪での「日本食品科学工学会」で「中高年の咀嚼と嚥下」について話をさせていただきます.
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