(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

遷延性意識障害の方にマウスピースによる口唇機能の向上を.

DocTak2006-11-19


今週,大変嬉しいことがありましたので,前回の予告とは異なる話題で失礼します.


私が診ている患者さんの中に,11歳で交通事故に遭い,その後15年を経たお嬢さんがいます.きっかけは,紙屋克子先生からの依頼でした.口腔機能の回復の可能性の評価でした.バギーに乗って(乗せられて)自動車で2時間程度揺られてお越しになられた後での,周囲の未経験の騒音,見たこともない機械群,沢山の白衣の人間たちによる大学病院での診療室での評価の結果は,問診での病歴や現症とは乖離するものでした.ご自宅を訪問しての結果が日常での機能をよく反映していました.その結果,彼女の障害は,15年間にうまく負荷が与えられなかったことによって生じた廃用性の変化が原因であると診断して,メニューを作り,それなりに順調に経過していました.


昨年,筑波記念病院に入院されて,紙屋先生たちのケアにもとづくリハビリテ−ションを受けられ,お戻りになったときには支持すれば立位まで採れるようになっていました.
これが問題を起こしました.立位が採れるということは,ご自身で体幹を動かせる能力が向上したことです.昨年9月,一瞬のことで自身の寝返りでベッドから転落されてしまったのです.体幹保持の機能が向上していたため,頭部は支持できていたようで,頭部は直接床に打撲することはなく,幸いに外傷は受けなかったのですが,骨盤骨折して急遽入院となりました.この入院期間中に口腔機能も含めて廃用性に退行してしまいました.その後,冬を向かえて,御来院できない状態が続きました.


ずっと気になっていたので連絡をおとりしたところ,下顎前歯が後ろに倒れてしまい,舌も奥の方に入り込んだままになり,口が閉鎖できなくなっている,また夜間には唾液のムセが著しくなってきている,とのことでした.
受診していただき確認しましたところ,ベッド上での臥位が続くと生じる下顎の開口位に伴い,下口唇が下顎前歯に乗っかり,時折上下口唇が反射性に閉鎖する際に下口唇を前歯が噛むために,一層下顎前歯に後ろ向きの力が負荷されて下顎前歯は口腔内に倒れるようになり,下口唇が口腔内に入り込んでいるために舌は後方へ押されて咽頭方向に位置するようになっていました.その結果,正常な嚥下運動に必要な,舌-口蓋での圧迫圧の形成が不足し,送り込みも不良になり,さらに睡眠時には後方位になった舌により咽頭が狭窄することで呼吸の問題が生じていることが伺われました.


問題は,口唇の位置の問題であると考えました.下顎前歯に乗っからないようにすることが必要であると考えました.意識が清明で,指示の伝わる方でしたら口唇プレートによる訓練という方法があるのですが,以前に試みたところ上手くいきませんでした.

そこで,口唇を本来あるべき位置(前方)に強制的,持続的に偏位させるようなプレート型のマウスピースを作成しました(右上写真).2ヶ月装着していただき,経過を観察しましたところ,上下口唇どおしで閉鎖が可能になり,閉鎖時には口唇周囲に「ウ」発音時に見られるような放射状に「皺」ができてきました.舌位も復位して咽頭への落ち込みが改善され,夜間に十分睡眠が採れるようになったと言われていました.プレートは常時装着中ですので,口腔ケアが欠かせませんが,幸いにしてご自宅の向かいに歯科医院があり,そちらの先生と連携して口腔衛生状態については管理していただいています.これからの方針は,徐々にプレートの内面を調整し,後ろに倒れていた前歯を挙上していこうと思います.


ヒトの機能の可塑性は,私たちに新たな喜びを与えてくれます.

このようなプレ−トによる下顎前歯の位置の保持が急性期から行われれば良いのではないかと思います.歯科には,リハビリテ−ションの領域に,そしてケアの立場で,まだまだ遣り残していることが山積ではないでしょうか.

今週は,奈良で講演し,土曜日には守口市での講演です.

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