(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

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咽頭への送り込みなのか咽頭への吸引なのか?

DocTak2007-05-14



昨年,大阪のある基幹病院の脳外科から紹介されたNさんは,舌咽神経腫瘍術後の患者さんです.術後の嚥下障害とspeechの障害への対応を希望してお越しになられました.気管カニューレが入っていたので,当然speechはできませんが,声が出なくてもspeechの動作を試みると口蓋帆咽頭閉鎖機能は診断できますので,内視鏡で評価しましたところ,当然のことですが口蓋帆咽頭閉鎖機能不全であり,運動障害性構音障害での症状を呈していました.カニューレの抜去がspeechの回復のために必要です.


舌咽神経腫瘍ですので嚥下に問題があってもおかしくは無いのですが,病歴からは熱発も軽度,入院中であっても幾分か経口摂取されておられると言うことでした.しかも手術してからの経過が長く,主としてチューブでの栄養が長期に行なわれていたにもかかわらず,です.


問題はどこにあるのか,を嚥下造影にて調べましたら,なんと嚥下時に気管内に食物が塊で入っていきます.


まさに食塊そのもの.


すなわち,この状態では気管カニューレは抜去できないということです.なぜそういう状態でも問題ないのか.この方の気管切開口は,通常と少々異なって,輪状甲状膜の部分で開けられていました.その結果,喉頭の挙上運動や甲状軟骨の上下的運動が困難であったのと,私たちが疑ったのはカニューレの上部に『肉芽組織』があって,そのために気管内深くに食塊が入らなかったのではないかということでした.


検査を依頼しましたところ,やはり肉芽が存在したのですが,大変なのはカニューレを抜いてしまい,切開孔が閉鎖し始めると窒息する恐れがあるため,抜けないとジレンマでした.もう一つ私たちが想像したのは,舌咽神経麻痺によって嚥下時に口腔,咽頭,鼻腔が一つの腔となることです.


多くの教科書には,「口腔から咽頭へは『送り込み』」と書いてあるのですが,咽頭期の前半では咽頭には『陰圧』,すなわち吸引力が発生します.このことを無視している教科書が結構あります.もしも咽頭に陰圧が発生しないと,宇宙では嚥下できないことになります.


私たちは,このNさんにはバルブ型のスピ−チエイドと同じ装置を装着することで,鼻咽頭と口咽頭を分離して陰圧が発生しやすくして嚥下機能を賦活した後,肉芽組織の除去をお願いしました.これはもともとの病院から別の基幹病院の耳鼻科にて行なっていただきました.複数の病院で,相互に顔を知らなくても,理解と協調性があれば良好にチームが組めた一例でした.


右上の図は,通常私たちが使用するhybrid型のBulb-PLPです.NさんにはいわゆるDown and up型のwire-bulbを使用しました.


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