「疾患別に診る嚥下障害」(藤島一郎監修)が医歯薬出版社から出版されました.私は,その中の「唇顎口蓋裂」を担当いたしました.取り上げられた理由は定かではありません(学会のe-learningでも「唇顎口蓋裂」の項目があり,そちらも私が担当しました)が,おそらく口蓋に裂があるため,口腔での送りこみや咽頭期での嚥下に障害が生じると一般に思われやすいためではないかと愚案しています.
折角の機会ですので,少しばかり触れておきたいと思います.
口蓋裂の分類方法は沢山あり,裂型で分けるのが一般的ですが,もう一つ大きな分け方として,「症候性syndromic」と「非症候性nonsyndromic」があります.
症候性の場合には,背景にある重大な障害に伴う嚥下障害を有する場合もありますが,非症候性の場合は,まず嚥下障害は生じません.未手術例に加えて1歳前後で行う一次手術(口蓋形成術)を行った症例の一部(4歳時で約15%,言語治療の限界と言われている10歳時で25%)に生じる口蓋帆咽頭(いわゆる鼻咽腔)閉鎖不全があっても同じです.
閉鎖不全があると,たしかに,speechと/あるいは(and/or)blowing時に鼻腔への呼気の漏出がありますが,通常,嚥下時には完全閉鎖します.
このことは重大な意味を持っています.
すなわち,speechでも嚥下運動でも同じように軟口蓋の挙上運動で口腔と鼻腔が分離されるように見えますが,その運動の本体は全く異なるということです.すなわちspeechは「呼気(不要なもの)を体外に排出する」呼吸活動,嚥下活動「食物(生命維持に必要なもの)を体内に取り込む」栄養摂取行動であるということです.構音訓練が嚥下障害に有効であるとする多くの成書がありますが,生理学的には究明されているのかな?ということです.
でも「臨床現場では,構音訓練すると改善する人がいるよなぁ」.私も同感です.その理由は,経口摂取していないために口蓋帆挙筋も口蓋舌筋も廃用化していることで,軟口蓋が挙上できなくなっている場合に,speech(嚥下運動時よりも挙上のための口蓋帆挙筋活動は小さくて済む)の訓練によって,軟口蓋の挙上機能をうながすために効果があるというところでしょうか.すなわち,適応症がありそうですね.
詳細は拙著「口蓋反咽頭閉鎖不全-その病理・診断・治療」を参考にしてください.
左の写真は,我が家の横の歩道の縁石の隙間から生えた百合です.たくましい.
今月,5日には日本歯科医学会生涯研修で金沢にお邪魔しました.19日には加古川・播磨での摂食嚥下研究会で御世話になりました.有り難うございました.