(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

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鼻咽腔閉鎖不全症に起因する開鼻声は鼻栓で治すのか?????

DocTak2007-04-30



私はもともとspeech peopleで,今でも口蓋帆咽頭閉鎖機能(velopharyngeal function VPF)の調節を基礎にした臨床や研究に最も興味を持っています.さて,speechでは,VPFは正常な構音動作articulationの獲得と表出に必要で,またvoiceの鼻音化を防止するというところに大きな役割があります.時として,開鼻声だけが防止されるなら,『鼻に栓』するようなもので良いのじゃないかというような,荒っぽいことを報告される場合があります.これは,あまりspeechの判っておられない方の考えであり,言語の専門職の方からは失笑を買うような考えです.


その問題はいくつかあります.まず鼻に栓をするというのは,

  • 正常な鼻音の共鳴が障害されるために,袋小路共鳴(Cul de Sac resonance)を生じること,
  • 鼻呼吸が障害されるために,speech pathology上の大きな要素の一つである流暢性fluencyが障害されること,
  • 口蓋帆咽頭閉鎖機能の主たる役割をなす口蓋帆挙筋は,口蓋帆咽頭閉鎖不全症(いわゆる鼻咽腔閉鎖不全症VPI)がある場合,健常者や境界線上のVPIでは鼻腔中の空気圧を上昇させると,VPFの調節機構は『発音時の呼気が鼻に漏れた』と感知して口蓋帆挙筋活動を上昇させて閉鎖強度を高くしますが,絶対的なVPI例では反対に鼻腔内圧が過度に上昇すると口蓋帆挙筋活動が低下すること

以上のことを,かつて筋電図学的研究によって私は報告しました.その様相は,まるで,VPFの調節機構が,鼻に極度に空気が漏れると,口腔と鼻腔の分離のための努力が必要なくなるために,活動を止めるが如くです.


すなわち,長期間鼻栓をした状態でspeechをしていると,口蓋帆挙筋の活動性の低下による廃用性変化が生じ,軟口蓋は動かなくなることが考えられます.実際に,脳卒中や外傷性頭部障害によって運動障害性構音障害を有し,VPIを呈している方に,PLPを用いて治療を進めていくとVPFが賦活されることを経験します.もしも,責任疾患のためにVPIが固定されていると誤解して,鼻栓によって開鼻声だけを誤魔化そうとすると,長期的には問題の多い機能障害を医原性に作る可能性があると思われます.その場合には,VPFの回復や改善は見込めないであろうと思います.すなわち,介入の仕方いかんで,「機能は『固定される』こともあり,『回復する』こともある」という印象です.


まさに,『理論なき実践は暴力である』ということですね.
今回はspeechの話をしてみました.口腔ケアと言いつつ,なかなか向かえません.少し,最近臨床で気付いた,VPFの臨床で興味深いこと,それはspeechにも嚥下機能にも通じることを書いてみます.


右上の図は,米国のspeech pathの学部の基本的なテキストであるVanRiperの『Speech Correction』の4版にある The field of speech pathology』からの改変図です.アメリカの教科書は,何故こんなに学生が勉強しやすく作られているのだろうか?このfigure1枚で,音声言語病理の問題が,相互の関係や重要性が理解できます.最近の販売されている版からは無くなりました.残念です.


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