セミナーの後,溜まりにたまった原稿の締め切りがラッシュアワーのようにやってきております.連載,教科書,自著版のテキスト(医歯薬出版「嚥下障害のケアとキュア(仮題)」)の最終の校正等々,関係者の皆様にはたいへんご迷惑をおかけしております.
「いとしのエリー」さん,セミナー直後にコメントを頂戴しておりましたのに失礼をしておりました.また,懐かしく素晴らしい方々のおられる仙台に是非とも再訪(再々々々々・・・・訪くらいでしょうか...)したいと思っております.
私は「刻み食(ミキサー食)」が可能であるということは,嚥下機能には問題がなく,「普通食」が可能であると申しておりました.
ある施設でのヒヤリハット事例を検討する中で「陥りやすい問題」に気付きました.
あるご老人が検査のためにある病院に入院されました.入院直後には経口摂取が困難であるだろうとのことでNGチューブが留置されましたが,程なく体幹保持が可能とのことでチューブが抜去され,経口摂取が開始さられました.ご家族からは「刻み食」であるとのコメントが出ていました.これまで38度程度の熱発は,不十分な口腔ケアにもかかわらず既往はありませんでした.
刻み食・ミキサー食の問題....
- 食渣が口腔内に残留して,誤嚥しやすいこと.
- 刻んでいない食事よりも咀嚼回数が増えること.
- 元の食材が判らないために,食欲が湧かないこと....
このような問題があるために,咀嚼機能や嚥下機能から言えば刻み食・ミキサー食を食せるなら「普通食は可能である」として講演の際にも申し上げてきましたが,これに条件を加えなければならない事例となりました.
個室で十分に体幹を挙上し,ある日の夕食は普通食をご自身で良好に摂食されました.翌朝食として普通食「パン」が出ました.
個室で一人で摂食されたそうですが....
しばらくしてコールがあったとのことです.駆けつけると,口腔に充満した巨大なパンの塊が出たそうです.複数のパンが一塊になっていたそうです....
問題はなんだったのでしょうか.
姿勢に問題なし,発熱の既往がないことで誤嚥もないでしょう.たしかにパンは普通食かもしれませんが,それは歯があって咀嚼できる人にとっては,という条件がつきそうです.
歯があれば口の中に入ったパンを咀嚼します.すると刺激性唾液が分泌されます.唾液にはアミラーゼが含まれるので,パンの澱粉を分解して表面をドロドロにして咀嚼を助け,さらに飲み込みやすくします.
しかしながら,咀嚼できる歯が無くて咀嚼できない場合には,パンは口腔内の水分(すなわち唾液)を吸ってしまい,さらに吸われた唾液によって表面は糊状になり,ますます粘膜に張り付きます.
パンの提供には,注意が必要です.何よりも問題は,歯が無ければリスクは極度に高くなるということです.パンを調整するなら,フレンチトーストにするか,パン粥にするべきであったでしょうし,唾液分泌量の低下したご高齢の方が個室でお一人で摂取されていたことも問題だったでしょう.食前の口腔ケアが必要だと思われます.
ご婦人は,その後,義歯を作成され,食前に口腔内外をマッサージして唾液を分泌させておいて,ご家族はスープやオイルを使われた食事とともに,パンも提供されているとのことです.