(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

口の中を見ない歯医者は口の医療者ですか?

DocTak2008-02-20



日差しは春めいているのですが,まだまだ寒い毎日です.この日曜日には大分で歯科医師会主催の介護保険と口腔ケアについての講演をさせていただきました.歯科医師会の先生方を超える250名余りの施設の方々にお越しいただき,「口腔ケア」についてはまだまだ「言葉」が先行してしまって,現場ではお困りなのだということに気付かされます.
日本で唯一民生用のホーバークラフトで,空港から大分市まで向かいました.


ある初診患者さんでの経験です.

この方は四肢機能と構音機能に軽度の障害を有する脳性まひの青年でした.今年になってから突然咀嚼ができなくなり,舌での送り込みが難しくなり,とくに夕刻に左側の顎関節周囲に疼痛が強くなることで一層咀嚼できなくなったとのことで,HPに先進的な治療を掲げておられる歯科医院を受診されました.


同歯科医院での診断では,左側の顎関節症,脳性まひによる痙攣,食事を送り込めないのは咽頭感覚の鈍麻であると診断され,抗痙攣作用のある「芍薬甘草」を処方されて,私どもの受診を勧められました.


時間をかけてお話を聞かせていただきました.左側の頬のあたりが夕方になると強く痛くなる,カレーライスは食べられる,水分は摂取できて誤嚥は無いということでした.口腔を視診しましたところ,上顎第二大臼歯の後ろにある頬の粘膜に長さ1cm程度の菱形の傷(割創)が見つかりました.ちょうど,口を開けると下顎の立ち上がっている骨(下顎枝と言います)の前縁に相当する位置でした.少し頬を引っ張ると傷は大きく開いてきましたが,既に炎症は軽度でした.


「おそらく」がつきますが,話は簡単です.


この青年は,時々自分で普通の歯ブラシでブラッシングするのだそうです.脳性まひの方では,微妙な運動調節が困難で,御父君によれば大きなストロークで磨かれるとのことでした.大きなストロークで歯ブラシの柄が下顎骨前縁に強く当たり,その結果「割創」が生じたと考えられます.


同部の粘膜の炎症が頬部に波及し,顎関節痛のように感じられ,開閉口運動のない睡眠時に傷が閉鎖されて治癒が進むにもかかわらず,覚醒時にはspeechと咀嚼運動によって傷が開閉されることで夕刻に疼痛が強くなるということと考えられました.


処方は,まず芍薬甘草の中止,抗生物質,消炎剤の処方,口内炎様の軟膏,1日7回(食事前後+就寝前)のブラッシング(電動歯ブラシでの),咀嚼頻度の少ない離乳中期食により創部を開閉させないようにする,ということにしました.


HPで素晴らしく先進的な方法を紹介されているようですが,もっとも単純な診断能力と想像力が無ければ救えないかもしれません.まず口腔内を見れば一目瞭然の例でしたのに.


いつもの私のモットー

「実践なき理論は無力である,理論無き実践は暴力でもある」


あらためて感じた日でした.