(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

強酸性水とは,何だ!?


先週お越し頂いた意識障害のお嬢さんの話を通じて,独りよがりのケアの恐ろしさの一例を紹介します.


このお嬢さんは約1年前に私どもにお越しになられた意識障害の患者さんです.初診の段階では廃用性変化のために嚥下動作自体が軽微でした.いつもの『大3点セット(呼吸路,口腔咽頭機能,食物)の調整』に向けて,とくに最初の段階としての常道である口腔ケアを通じて反射を促そうということになりました.訪問の歯科医師さんがおられるということで,同職であることから条件的に良いではないかと思っていたのですが,これが困ったことになりました.


ある意味でteamとは,自職の立場から行なおうとすることについて,他職に情報を公開し,意見を求めることでより高い効果をあげるか,問題となる部分を相互の介入で軽度にするという意味があります.独善的な思い込みでは,他のメンバ−(ここにはご家族も入ります)が困る結果ともなります.


この歯科医師さんは「酸性水」の信奉者のようでした.この水を使って口腔ケアを寝かせきりで行なわれていました.それからしばらくして,嚥下動作が消失し,喉頭侵入が増加しました.当初,ご家族とともに姿勢のコントロールから始めて良い方向に向かいかかっていたのに,です.この水については使用を控えていただくように,また姿勢の調整についても申し入れましたが,残念ながら改善されず経過していました.


今週,ご家族からお話をお聞きしたところ,使用を控えられるようになった,というよりも診療を控えていただいたところ改善傾向になってきたとのことでした.


私が毎週お邪魔している守口の吉田春陽先生のところでは,器具の消毒や模型の消毒には「酸性水」を使っておられますが,生体に使うことの非常識さにあきれられていました.口腔内をこのような強烈な液体で滅菌できると考えられることに驚きます.仮に可能であっても,その効果は使用した直後の一瞬であろうと思われます.むしろ怖いのは,これによって多くの常在菌も減少し,さらには粘膜への為害性ではないかと思われます.


私は,吉田歯科医院の強酸性水を飲んでみようと思いました.陽気で責任感強く心優しい美人の衛生士さんにお願いして,コップにいれていただき,口に含みました.すぐに「ハイタ−」を口に入れたのではないかとの錯覚に陥りました.下手すると,これはショックでも起こすかと思えるほどの異様な味と匂いと粘膜への刺激でした.


実に哀しい気分になりました.いまだ口腔ケアに理屈が無い状態で行なわれていることの典型ではないかと感じられました.方法論や用いる薬剤や道具に血道をあげるのではなく,当たり前の感覚でケアをするべきではないかと思うのです.使用した歯科医師は,この強酸性水を自分の口に含んだのでしょうか.仰臥位で口腔ケアをするという問題行動の上にこのような水を使おうというのは理解できませんでした.


明後日から摂食嚥下リハビリテ−ション学会が開催されます.初代理事長の金子先生が,第三回目かの理事・評議員会の懇親会で
「最近発表が増えたのは喜ばしいことであるが,誰のための発表であるのか,臨床の現場,最前線での情報となりえるのか」と苦言を呈せられていたことを,改めて感じるようになってきました.全老健の懇親会でも「85%の利用者である脳血管性認知症の人々への対応のヒントは少ない」学会であるとの意見も出ていました.意識障害の方々や認知症の方々を診る機会の多い私も,年々,肌合いが悪くなってきているのですが,ここで撤退すると本当に議論の場がなくなるので今年も参加します.


14日の午後の口腔ケアのセクションの座長を務めたあと,サテライトの「のもう会」で,8年間非経口摂取であった意識障害のご婦人に口腔ケアを軸とした取組みで経口摂取していただけるように支援できた症例の取組みの概要について報告いたします.


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