(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

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Nurse Sunさんのご質問-姿勢

DocTak2006-10-29



私にはもう一人mentorとして尊敬する先生がいます(実際には「いました」).鼻咽腔閉鎖機能の調節機構の面白さと臨床での重要性,そこから展開して解剖学や生理学の奥深さや面白さを教えてくださった先生で,今の自分の基礎となった方です.その先生がおられなければ大学を,はるか昔に去っていたと思います.残念ながら,若くしてお亡くなりになられ,教えていただけなくなりました.まだまだ,人間性や能力では足下にも及びませんが(もう追いつけないかも?),折々に心の中で会話しております.

長谷寺にお墓があると聞いていたので,ずっと墓参したいと思いつつ果たせなかったため,思いついて,すぐに見つかるだろうと下調べもせずに,昨日,行ってまいりました.現地で教えていただいたのは,墓地は長谷寺のすぐ横にあるのですが,長谷寺自体は管理する墓地を持たず,その墓地は地元の別のお寺が管理されているとのことでした.山の中の広大な敷地の多数のお墓の中に,まさに分け入って先生のお墓を探したのですが結局判らずに帰ってきてしまいました.
思いつきはいけないことを感じつつ,再度,来月にでもお伺いすることを心にして帰りました.


さて,前回のお約束で,Nurse Sunさんからのコメント私見を述べさせていただきます.
Nurse Sunさんのコメントです.
「さて、姿勢、体位について教えてください。ハイレベルの内容から一転しますが、許してください。呼吸路の確保、胸郭の保持との話のようですが、歯科において、俗に言う仕上げ磨きは仰臥位、頭部を45度斜めに保持をして行うように聞いたことがあります。(間違っていたらすいません)座位、やや下顎を引くと口腔観察、清掃が難しいように思います。その点どのように解釈し、実施すればよいのでしょうか?』


「仕上げ磨き」は,一般には幼児や低年齢の小児に対して行いますね.年齢の低い子供では,咽頭の成長は十分ではありません.「咽頭は短い」ということです.このことは,気管口も成人に比較して高い位置にあるということで,誤嚥しにくい構造であるということです.咽頭反射が正常で,鼻呼吸が可能な健常児では,「仰臥位、頭部を45度斜めに保持する」姿勢は問題ありません.


まず,共通した概念を書きます.頚部は伸展していると喉頭挙上運動が抑制され,喉頭蓋での気管口の閉鎖が困難になります.水は軟口蓋が挙上すると舌の運動とは関わり無く,一気に咽頭深部まで流れるますこれは,私の所属する教室の大学院4年生の奥野君の素晴らしい仕事*1があります.彼の仕事は次回紹介します.大変興味深いものです).咽頭は短い方が誤嚥のリスクは低下します.


仰臥位で上を向かせた状態というのは,じつはケアする側の都合(しやすさ)ということです.咽頭反射閾値が高く(つまり「反射が鈍い」)て,咽頭での嚥下反射が生じにくいと,ケアの際の水は一気に咽頭方向に流れて軟口蓋と舌との間で溜まった水を嚥下しようとしても,頚部が伸展位であると誤嚥します.そこで,理想的には座位,「下顎を引く」のではなく,軽く「うなずく」ことで,頚部の伸展を解消することです.観察は,観察する側が自身の姿勢を調節すればいかなる状態でも可能です.また体幹保持の問題のために,座位がどうしても採れない場合には,ファーラー〜セミファーラー位を採り,顔を横に向かせることでも(これにより,咽頭への水や唾液の流入速度は低下します)安全性は確保できます.


いかがでしょうか?


写真は10月28日,雨の長谷寺です.まだ紅葉には時間がかかりそうです.


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*1:嚥下時,口蓋帆挙筋活動の調節に与える嚥下量と粘度の影響