嚥下障害の教科書には,よくファウラー位〜セミファウラー位を勧めるようなことが書いてるのですが,上半身だけを起こすことで嚥下機能は確保されるのでしょうか.
誤りですね.9月24日,28日,10月3日のブログを読んでいただいた方々にはお判りのことと思います.上半身の姿勢確保と同時に,下顎が前下方に開けられ,容易に閉じることができるように頭位を整え,その姿勢で頚部の過剰な緊張を低下させて,喉頭運動の範囲を保障することですね.
仰臥した状態を長期に続けると,開口した状態が固定されます.そして,どうなるか?(これが前回の問題です.)
口腔乾燥します.唾液は1日に1.0〜1.5L程度分泌されます.ホ−!!排尿量が1日に1.5〜1.8Lであることを考えると,これはすごい.
ここに在宅で療養されている寝かせきりの方が居られるとしましょう.これからやって来る冬季.「心優しい」ご家族が「風邪をひいてはいけない」と,エアコンやヒーターを点けておくと.....どうなるのか.1日に尿量分程度の「水」を,尿以外にも失うことになるのですね.これでは「脱水」の可能性が高くなります.
また,口腔乾燥して唾液の自浄作用が期待できず,口腔粘膜にはカビカビの痂皮のような,痰の乾いたような,角化物が沈着します.この中には雑菌が繁殖します.粘着性が高くなるために,舌運動は障害され,開口していることもあって,上手く唾液を嚥下できず,粘稠な唾液が気管に垂れ込み(喉頭侵入penetration)はじめます.誤嚥性肺炎へのリスクは一気に高まります.
仰臥位はいかんなぁ,と思うわけです.
前の東北大学の佐々木教授は,寝かせきりは日本だけで,アメリカにはいないと言われていました.その理由は....次回書きます,少々信憑性に?がついてしまいますが,私は何となく納得もしてしまいました.
さて仰臥位で開口していることのもう一つ重大な問題があります.これは次回への問題とします.じつは口腔乾燥もそうですが,これと同等以上に問題です.
右上に成人の頭部の矢状断面が出ています.この頭の人を寝かせると,どうなるか考えてみてください.
ヒントは,「舌は大きい」です.
では,また.
Copyright c2006 Tak Tachimura All Rights Reserved.