今週は,ブログの更新の期間が長くなってしまいました.お立ち寄り下さった方々にはお詫びいたします.
先月は,学会で多くの先生方に再会し,筑波大学では紙屋先生の患者様にお会いして多くのヒントを頂いた上,宿題を頂いてしまいました.宮崎県では熱心な歯科医師会の先生方にpowerを頂戴し,東京での口腔ケアシンポジウムで加藤武彦先生に激励され,金谷先生には食物物性が口腔から咽頭への移行段階の口蓋帆挙筋や口蓋舌筋の活動の調節に関わり,のど越しが私たちの筋電図学的研究で説明できることについて同様の認識であるとの意見を頂戴しました.
そんなこんなで9月が終わると一杯溜まっていた原稿の締め切りが一斉にやってきました.クインテッセンスの原稿もようやく終わりました.Zemlinの言語聴覚士さん向けの解剖生理学の翻訳もやっと終わりました.クインテンッセンス,医歯薬出版の編集の方々にはご迷惑をおかけしっぱなしでした.ここでお詫びいたします.Zemlinの教科書はなかなか良いものだと思っております.私が筋電図の仕事でのmentorと思っているKuehnからの推薦でしたが,強烈な大作でした.Kuehn先生は,右上の写真の紳士です.注目は彼の車のプレートです.「Velum1」号です.全米,いや世界に1台の「軟口蓋1号」です.
さて,今年,熊本と福岡での講演の後,先週の宮崎の講演にお越し下さったKomugiyasanがコメントを加えてくださいました.症例へのご質問ですが,ちょうど私が診察する際の流れを書く上で良い例ですので,参考にさせていただきます.
前回の問題への私見は次回にします.
さて,Komugiyasanのご質問は,
「宮崎のご講演とても勉強になりました。有難うございました。ところでぜひ先生にお聞きしたいことがあります。私が口腔機能向上訓練を行っているK君ですが1年前の夏に川でおぼれて低酸素性脳症と痙性四肢麻痺の障害をもっています。主治医の小児科の先生の依頼で7月より毎日訓練を行っています。私も手探りでおこなっているのですが、原始反射がありシリコンのスプーンは噛みきります。親御様のクリスマスまで(両親がクリスチャン)何か食べさせたいとの気持ちに答えたいと思うのですが先が見えてきません。担当看護師と先生は表情が以前と違うと言ってくださいますが・・・顎関節も硬く開口訓練も行っていますが訓練中5分間泣いています。どうも気管切開をしてから噛みこんであけなくなったとお母様が言っていました。なにかよい方法があれば教えていただけますか。」
もしも私ならというところから...
まず,目標の設定のために,この1年間の病歴と現症,現在の介入状態を検討します.
「クリスマスまで何かを食べさせてあげたい」とのことですが,riskを抱えての挑戦的な介入であれば,周囲の気持ちがK君には伝わらないでしょうし,反対に惨めな結果になるかもしれません.「理論なき実践は暴力である」ことを胸にしておきます.
「玉ねぎ」を剥くようにして,多様な妨害因子を取り除いていき,その度に目標を設定しなおします.
とりあえずは情報の収集です.
- 障害を受けた直後からの全身状態と介入の内容.これにより原因からのものか,介入の方法による(あるいは未介入による)二次的な障害なのかがある程度わかります.
- 低酸素脳症の結果としての末梢神経系の障害の有無と程度.
- 過去の臨床検査の結果,Chest X-ray,BW,RBC,WBC,Alb,CRPの推移によって,誤嚥性肺炎や消耗の程度がわかります.排便の程度によって腸管運動がわかります.
- 現在の投薬内容,とくに抗痙攣剤は嚥下機能に障害を与えるものも少なくありません.とたえば,リボトリ−ル,ランドセンなどです.
- 日常の姿勢はどうでしょうか?
- 今,K君はどのようにして栄養されているのでしょうか?長期の非経口的な栄養法によって口腔咽頭の機能に二次的な障害(廃用性変化)が生じることがあります.
K君については, Komugiyasanとmailでやりとりをして,可能であれば次回以後にも取り上げたいと思います.
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