3月終わりに北九州歯科医師会主催の歯科医師+栄養士との連携のための講義,翌日市民フォーラムで講演してまいりました.熱い,小倉の老若男女,堅気さんからその道の専門家まで,本当に熱い人々でした.
久しぶりに症例です.
以前に黒田留美子先生のソフト食を広めるセミナーで講師に呼んで頂き,その際に参加されていた老健施設にお勤めのDHさんからの紹介を受けたご婦人について考えてみます.
軽度の認知症があり,四肢機能も低下しています.穏やかな温厚でにこやかな上品なご婦人です.
主訴は,刻み食が出ているが,丸呑みになり廃用性変化に陥るのではないか,また普通食へ移行することは困難かの評価の依頼でした.
生理学的に言えば,「刻み食」が可能ならば,基本的な嚥下機能(気道を保護する機能)は障害されていないと考えられます.
来院された際に食事(バターたっぷりでクリームが塗りこまれた自家製のパンで,凝集性も高く,しっとりとした状態でした)を摂っていただきました.上下の歯牙は不十分ながらも揃っており,咀嚼できそうな様子でした.しかし,丸呑みされていました.
ご家族にお聴きしましたら,認知症になられる前から,ご家族には多様なお食事をお作りになられていたのが,ご自身は「クッキー」等の菓子を食べて済まされることが多かったということでした.
パノラマX線でも問題ないように見えたのですが,よくよく臼歯部を観察すると,上下に歯が揃っているように見えたのですが,咬合しても上下の臼歯咬合面には隙間がありました.
反対側には上下の臼歯が揃っていませんでした.どうもこのご婦人は,歯があっても咀嚼できないために,クッキーのような「ガシャガシャ」と崩すと唾液でどろどろになる菓子を摂られていたのと,パンを丸呑み(実際は離乳中期にような舌と口蓋での圧迫)されているようでした.
ご自身の治療済みの臼歯の治療をするには,撤去することが必要ですが,その間の摂食機能の低下は避けたいと考え,欠損のある側に義歯を装着しました.
その後,担当のDHさんの訓練や施設職員さんの協力もあって,普通食が摂れるようになりました.
80歳になって歯が20本あっても,機能していないのであれば,咀嚼機能は低下します.気づきが大切であることを気づかされた方でした.
The Quintessenceの連載7回目は,「歯科医師は栄養ケアマネジメントのために何ができるか」です.今年度の介護保険の改定での歯科医療職につきつけられた仕事をどう考えるかについてコラムしています.
第4回基礎セミナーは,残席あります.