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さて前回お約束の話題です.
側音化構音という構音障害があります.これは,舌尖が前口蓋部に強く接触することで,本来口腔の正中から抜けるべき発音時の呼気が上下の側方歯群の間から抜けて(抜いて)しまうことで生じるものです.口蓋裂患者さんで,口蓋形成術によって口蓋が浅くなっている場合,上顎の狭窄歯列弓のために誤まって呼気が側方から抜ける場合などに見られますが,器質的な問題が無い場合でも生じます.
1月に初診した患者さんは,ST養成校の生徒さんでしたが,側音化構音について講義で知り,自分の構音様式が,まさにそのとおりであるとして指導者に相談の上で受診されました.
口腔を観察すると,歯牙の萌出高が十分でなく,咬合高径が低くなっていました.臼歯部に舌圧子を噛んでもらった状態で構音すると,促音化は幾分改善しました.この患者さんでの側音化構音の原因は,構音時の口腔容積と舌体積とのdiscrepancyによるものであると思われました.そこで,構音時の口腔容積を強制的に大きくするために,口蓋床を装着し,臼歯部にレジンを盛り上げることで舌正中から呼気が誘導できるようにしました.
コンセプトは,咬合床で正しい構音様式を再学習すれば,徐々に咬合高径を減じていくことで,最終的には床を撤去するという考え方です.
現在装着開始1ヶ月ですが,既にいくつかの音素では,装置がない方が構音しやすいとのコメントであり,構音評価においても問題なくなってきています.
構音障害の中には,口腔の構造的な問題が関与する場合があります.側音化構音のすべてが床装置で改善できるとは思えませんが,少なくとも構音訓練だけでは難しい,なかなか改善しない場合には,口腔装置と訓練を併用しても良いように思います.
ただ,残念なのは,歯学教授要綱の中には,構音障害の診断や構音障害の装置による治療については含まれていないことです.歯科と栄養,歯科と音声言語は密接に関係するのですが.....
The Quintessenceのコラム,今月号では『高齢者施設における義歯の悲惨な状況』というタイトルです.
ご意見を頂戴できれば幸甚です.写真はクイントの表紙と昨日ようやく満開の我が家の紅梅です.小さな鉢植えを庭に直植してから7年も経って咲いてくれました.感謝感謝です.