(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

様々な原因による食べる,話す機能の障害に対応するための情報を提供します

Team for Oral Unlimited Care and Health 限界無き口腔ケアと健康のための医療福祉団 http://www.touch-sss.net/ http://touch-clinic.jp/

気管カニューレをレチナに交換したN君のその後

DocTak2008-01-22



先週からぐっと冷え込んで参りました.大阪とは呼べないほどの極寒の地にあります我が家ではいよいよスタッドレスタイヤが威力を発揮する頃となってまいりました.いかがお過ごしでしょうか?


先週は全老健の会議の翌日の土曜日,仙台オープン病院で講演をさせていただきました.午前と午後2回行なったのですが,午後は時間切れ寸前と少々疲労気味で端折った部分があり寒いところをお越し頂いた方々には申し訳ないことになりました.


さて,今週は,昨年大阪のK病院呼吸器内科部長のF先生の御支援を頂戴して,気管カニューレからレチナに交換させていただいたN君の再診をさせていただきました.御母堂のお話では非常に良好に経過しているとのことでした.約1時間の診察中も全く吸引は必要なく,また口腔ケア時に通常生じる刺激性唾液も良好に反射性に嚥下されるようになっていました.視診では,やかりカニューレ留置時よりも,はるかに喉頭の挙上運動は良好であり,嚥下動作も以前より楽そうに見えました.呼吸音も頚部聴診音も問題ありませんでした.交換直後よりも良好になってきています.


嚥下時の気管の保護機構は,
1) 喉頭蓋の前後運動による気管口の前後からの閉鎖
2) 左右声帯どうしが正中で合わさることによる左右からの閉鎖
によって行なわれます.

すなわち,上方から見ると,閉鎖面は+型になることで緊密な閉鎖が可能になっています.


通常,健常者が言葉を表出するとき,左右の声帯を近接させて声門の下の呼気圧を上昇させ,それを近接した声帯の間を通過させて声帯を振動させて声を出しています.すなわち,健常者では,話をすることで声帯筋は鍛えられるということになります.


もしもカニューレが留置されると発声ができませんので,長期にカニューレを留置すると声門下圧による声帯筋への負荷が消失するため,閉鎖が弱くなります.そうすると嚥下時における声帯閉鎖強度も低下して,誤嚥するリスクは高くなります.


レチナへ変更することは,喉頭挙上を保障することとともに声帯筋の安静時筋活動を賦活する上でも効果があったと考えられます.
機能的口腔ケアを行い,その後にカニューレ離脱のためのプログラムを実行することが必要です.


診察終了時に,ようやく覚醒され,微笑まれたような気がしました.なにより嬉しい瞬間です.


写真は,仙台オープン病院の消化器外科部長でNSTを担当されておられるT先生手作りの篆刻によるNSTバッチです.お土産にいただきました.