(現在は使っていません)口腔機能の歯医者-DocTak舘村 卓のささやき

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VF検査と「とろみ」


口腔ケアの話に移りたいのですが,昨日,在宅訪問での嚥下障害の人々への嚥下リハと栄養指導に積極的に取り組まれておられる厚木の江頭さんからmailを頂戴したことと最近私の周りでよく起こることが気になって,今日は,嚥下検査のことについて書きます.


最近では嚥下障害が多様な学会で取り上げられるようになり,評価方法についてのシンポジウムも多くもたれるようになってきました.そして,一層以前にも増して,VF(videofluorography)検査が,嚥下障害の診断のGold standardのように,扱われるようになってきました.


VF検査は米国のCCC-SLP(日本のSTに相当します)たちが始めた検査です.嚥下障害に関する検査の歴史は,実にspeechでの口蓋帆咽頭閉鎖機能(いわゆる鼻咽腔閉鎖機能)の検査の歴史を踏襲しているように思います.かつてspeechにおける口蓋帆咽頭閉鎖機能の様相を,Keneth MollはCineradiography(レントゲン映画)で初めて観察し,軟口蓋運動がon-offのbinary運動ではないことを明らかにし,それによって筋電図学的研究が始まり,さらに近年の内視鏡的研究に至ったわけです.


米国では,1998年にアメリカ全体で95000人のCCC-SLPの85%が嚥下障害に取り組んでおり,嚥下障害の臨床はCCC-SLPのものという風潮です.したがって,VFが嚥下検査の標準検査になるのは当然と言う感じがします.しかしながら,SLPのもとに来る症例は,どんな背景疾患を有しているでしょうか.遷延性意識障害例は来られるでしょうか,認知症例は来られるでしょうか,ましてや在宅療養されておられる方々の所に訪問されているようなことは,聞いたことがありません.


VFでは造影剤を使用します.Iowaで嚥下検査を見たときには,蜂蜜を使用してとろみをバリウムにつけていました.蜂蜜は「とろみ」なのでしょうか?口腔内に蜂蜜を入れると,ベタベタした状態になります.「とろみ」ではなく,付着性や「すべり」ということが重要なのでしょう.
また,このブログで時々書いているように「とろみ」をつければ安全なのではなく,「とろみ」があまりに物性に多様性がありすぎて信頼性が低いことに気付いていただきたいと思っています.


VF検査では,意識障害が無い人で,こちらの指示が確実に守れ,「検査とは苦痛を伴う」ことを理解できている成人でなければ結果は信頼性に乏しいのではないかと思っています.


多くの病院でVF嚥下検査として,「あの学会のガイドライン」を用いて,多様な原因での嚥下障害の患者さんに検査されて,「誤嚥」があるから嚥下訓練は駄目だ,との断が下されています.遷延性意識障害の方々では,頚部や体幹のコントロールが困難な方々も多く,このような方の場合には姿勢のコントロールの良否や検査用の食物の物性と嚥下機能との関係は検査結果に大きな影響を与えると思います.何よりも「あなたの声が聞けない」方でもレントゲン検査室は周囲の音や雰囲気は恐怖かもしれず,日常が再現できないかもしれません.にもかかわらず,放射線医が,意識清明な患者さんの消化器造影検査の感覚で,仰臥させた状態で,バリウムを流し込んで,『誤嚥している』と診断するのはオカシイのではないかと思います.最近,そのような経験をたてつづけにしました.


いろんな検査にも適用基準を考える時期がきているのではないでしょうか.「とろみ」食の物性と人体反応の関係に基づいた被験食が待たれるところではあります.


ちょっと,愚痴ってしまいました.


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